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日本将棋は、南北どちらから来たか?

 前ページで、世界の将棋はすべて古代インドにルーツを持つことをお話ししてきましたが、ここでは日本の将棋がどのようなルートで入り、発展してきたのかを分かっている範囲でお伝えしたいと思います。

中国ルート説と東南アジアルート説

 

 日本の将棋は、国内に入ってきてからいろいろな将棋を生みましたが、最も完成された形として現代の将棋が生き残りました。しかし、その原型となる将棋がどこから入ってきたのかについては、昔から2つの説がありました。1つは北方ルート(中国→朝鮮半島)説であり、もう一つは南方ルート(ビルマ→タイ)説です。

 朝鮮半島経由説の最大の根拠とされているのは漢字です。将棋の駒に漢字が使われているのは、中国、韓国・北朝鮮、日本の漢字文化圏だけです。東南アジアの駒はどの国のものもチェスと同じ立体の半具象的なフィギュアとなっています。

 古来、日本の伝統文化はそのほとんどが中国から伝わり、日本で独自に発展してきました。将棋も例外ではない。そう考えるのは自然なことなのかもしれません。ちなみに囲碁は、奈良時代に遣唐使の吉備真備(きびのまきび)が日本に持ち込んだという説が、半ば定説になっています(実際には吉備真備の帰国前に、すでに貴族の間で囲碁が打たれていた形跡があり、疑問が残りますが…)。

 しかし、中国―朝鮮半島説には不利な面もあります。それは中国将棋(シャンチー)の駒が、囲碁と同じように交差線上に置かれることです。さらに駒の動きもシャンチーは日本将棋に比べて激しく、独特の細かいルールがあって、日本将棋のようなシンプルさがありません。中世の日本将棋も取った駒は使えないルールでしたが、そうした古い時代にも、シャンチー特有のルールやデザインは見当たらないのです。

 ちなみに、チャンギ(韓国・北朝鮮の将棋)は、駒の形が丸から八角形に変わり、一部の名前が変わったことを除けば、全体的にはシャンチーに酷似しています。

 一方、南方ルート説では、タイの将棋(マックルック)が日本将棋に似ているといわれています。タイ将棋の駒はチェスと同じ立体型であるため、あまり近似性がないと思われていましたが、駒の動かし方が穏やかで、チェスやシャンチーのような激しさがありません。また、駒は交差点上ではなく、チェスや日本将棋と同じようにマス目に置きます。駒のデザインの差に目をつむり、図や棋譜で比べれば、日本の将棋とそっくりだと気づくはずです。

 なお、将棋の伝搬に関しては史書にその記述が見つからないため、文献中心の歴史学ではルートが確定していません。今後も物的証拠を含めて、有力な手掛かりを見つけるのは至難の技でしょう。まあ、一部の将棋ファンを除いては、そんなことはどうでもよいのでしょうが…。

「プロの直感」はタイ将棋に軍配。独自に発展した日本将棋

 さて、この「どうでもいい問題」に取り組んだのが、歴史学者でも民俗学者でもないあるプロ棋士です。その名は大内延介(おおうち・のぶゆき)九段。「怒涛流」と呼ばれる棋風で、主に昭和五十年代に大活躍しました。

 1986年12月、大内九段は「将棋の来た道」という本を「めこん」という出版社から出しました。図や写真も豊富な、204ページのハードカバーです。趣味の旅を生かして、訪問先でその国の将棋を教わり、その場で実戦対局をした様子や、さまざまな将棋についての考察がていねいに書かれています。

 細かい内容はここでご紹介できませんが、大内九段がさまざまな国の将棋を現地で体験した結果、タイのマックルークについては「それほど違和感なく指し手を進めることができる自分に気がついた」のだそうです。タイと日本に共通する感覚は、チェスの「クイーン」や「シャンチー」の「砲」のような強力な駒の働きのある駒がなく、注意を払う必要がない点だといいます。シャンチーには、その他にも日本将棋の感覚では指せない要素が多いようです。

 大内九段は、訪問国の将棋を現地で初めて指して、教えてもらった相手を負かし、周囲を驚かせたそうですが、その中にタイ将棋も入っています。さすがにプロ棋士ですが、感覚的に日本の将棋に似ていたということも見逃せません(ちなみに、中国ではシャンチーにてこずったそうです)。結論として、プロの感覚では「将棋のルーツはマックルークではないか」ということですが、このことは訪問する前から世界の将棋をいろいろ調べるうちに、「タイがあやしい」と直感していたようです。

 たとえ文献や物的証拠はなくても、ゲームそのものの世界の感覚的・論理的帰結が、「日本将棋は南方ルート」と言っている。そんなふうに思えてくる一冊でした。

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