駒の損得と点数化による形勢判断
4つの形勢判断法の一つ… 「二枚換えなら歩ともせよ」は正しいか?
将棋の形勢判断の一つに駒の損得があります。その他に、駒の働き、王の堅さ、手番も判断の目安になりますが、序盤から中盤にかけては駒の損得は重要な指針になります。
1対1の駒の交換では、損得は明白です。将棋の駒は王将が一番大きく、次に駒の強さの順に
飛車、角行、金将、銀将、桂馬、香車、歩兵
と駒が小さくなっていきます。大きい駒のほうが得するわけですが、ではどれほど得なのか、考えたことがありますか? また、大駒1枚と小駒2枚の交換では、どちらがどれほど得なのか。これも難しい問題です。
将棋の格言に「二枚換えなら歩ともせよ」とありますが、例えば飛車を切って相手の金・歩と交換するのは、本当に得なのか? どうも信用できませんね。これは大駒を切る際の心がまえをオーバーに表現したもので、次に説明する駒の損得の点数化を見れば、言葉通りに受け取ってはいけないことが分かります。
一流プロでも異なる駒の点数化
プロは誰でも駒の価値について指針を持っていますが、それをアマ向けにわかりやすく数値化して示した棋士が過去に何人かいます。その中から、まだアナログ時代に「高速の寄せ」で棋界を席巻した谷川浩司さんと、ポスト羽生の旗頭・渡辺明さんの説を一表にまとめました。
歩兵 | 香車 | 桂馬 | 銀将 | 金将 | 角行 | 飛車 | |
谷川式 | 1 | 3 | 4 | 5 | 6 | 8 | 10 |
渡辺式 | 1 | 3〜3.5 | 3〜3.5 | 5 | 6 | 8 | 12 |
両者の駒の数値はおおむね同じですが、渡辺式では谷川式に比べて次の2点が異なります。
@渡辺式では、香と桂が同価値で、数値は両者の中間になっている。
A渡辺式では、飛車の価値が突出して高く、角の1.5倍となっている。
谷川式で見ると、歩3枚と香1枚が同価値になっています。初心者に近いほど歩の価値はこれより下がるでしょうが、「歩のない将棋は負け将棋」が実感できるレベルの人には、なるほどと思えるでしょう。香から桂、銀、金までは1点差でわかりやすいですね。
「好きな駒」の影響はあるのか?
さて、谷川式と渡辺式の数値の違いはどこからくるのでしょうか。超一流棋士の形勢判断は一致しないのでしょうか?
そうした面から見ると、谷川さんの好きな駒はかなり昔の情報ですが「角と桂」です。桂の評価が渡辺式と比べて若干高くなっているのは、そのせいでしょうか。
次に、「好きな駒は飛車」という渡辺さんのほうは、飛車の数値が突出しています。最強の威力を持つ飛車は、誰でもいちばん活躍します。渡辺さんだけが飛車遣いの名手ではないはず…。やはり、多少は「好き」の感情が価値判断に影響しているのでしょうか…?
時代の流行戦法と飛車の価値
谷川さんがきらびやかに登場した時代は、振り飛車と相矢倉の全盛時代です。対振り飛車では美濃囲いの堅陣に対して、飛車は本来の破壊力を抑えられる傾向にありました。そのため、角の活用や位取り、端攻めなど、飛車のみに頼らない攻めが重視されたのです。
一方、渡辺さんの時代になると、振り飛車側も居飛車側も穴熊に囲うことが多くなり、上部に強い半面、横からの攻撃には幾分弱くなりました。また、「矢倉は将棋の純文学」と言われた時代が過ぎ、相矢倉が相対的に下火になって、相居飛車は飛車を縦横に使う戦法が多くなりました。飛車の価値が幾分上がったのではないでしょうか。
どうでもよい話ですが… ちなみに、管理人の好きな駒は桂馬です。桂馬の使い方がうまいとライバルに言われたこともあります。また、飛車よりも角が活躍することが多く、相手の角に苦しめられることも多々あります。そんなわけで、桂馬の価値が高く、飛車の価値が低めな「谷川式」が管理人には感覚的にぴったりです。あなたは谷川派ですか、それとも渡辺派? |