詰めの手筋(飛車の使い方)
飛車の力を生かす―送りの金 じゃまな駒を捨てる一石二鳥の手とどめは王の退路を断ってから‥ 王の上部脱出を巡る読み
飛車は詰めの段階でも最も強力な駒です。序盤は主に縦から敵陣に、そして終盤は横から敵玉に迫るのが基本です。ここでは初心者のために、飛車を主軸とした力強い実戦的な詰めの手筋を解説します。
なお、用意した問題図は「詰将棋作品」ではないので、持ち駒が余ることがありますし、正解は一つとは限りません。
飛車の力を生かす―送りの金
問題図1 このように玉の守りが1枚しかなく、王の逃げる道が狭い場合、「送りの金」という手筋が寄せや詰めに有効です。問題図では即詰めがあります。 |
1図(☖3二金まで) |
正解
☗2二金、☖同 玉、☗4二龍、☖3二金(1図)
☗3一銀、☖1二玉、☗3二龍 まで
初手☗2二金が送りの金という基本手筋です。☖同玉の一手に、☗4二龍で銀を手に入れて、これがとどめの駒になります。なお、後手側4二の銀が金の場合は、1図で詰ますことができませんから、送りの金は不発に終わります。
じゃまな駒を捨てる一石二鳥の手
問題図2 5二の角が自分の飛車の道をふさいでいるので、送りの金(☗2二金)の筋が使えません。もしも角がなかったら‥‥と考えてみてください。 |
2図(☗6三角まで)
角がなかったなら
問題図2で5二の角がなかったなら、☗2二金と打てます。しかし、☖同玉に☗4二飛成と攻めて簡単な即詰め。‥‥と考えるのは早とちりです。☗2二金には☖4一玉と逃げることができるからです。ここで持ち駒が問題になります。もしも、角が駒台にあれば、☗6三角(2図)で詰むのですが‥‥。また、金があったなら☗5二金。「れば・たら」は、実生活ではあまりほめられた思考法ではありませんが、将棋では固定観念を打ち破るヒントになることがよくあります。
3図(☗5二金まで)
正解
じゃまな角を取り除くと同時に、攻めにつなげる一石二鳥の手筋があります。それは、
☗4一角成、☖同 玉、☗5二金(3図)
☖3二玉、☗4二金、☖2二玉、☗3二金、
☖1二玉、☗2二金 まで
☗4一角成と成り捨てて☗5二金と打つのが3手一組の基本手筋で、3図以下は、手数は長くても一つずつ右にずれていくだけですから簡単です。
とどめは王の退路を断ってから‥
問題図3 初手は玉を1三に逃がさない手、といえばすぐにわかりますね。次の手が問題です。9手詰ですが、3手目が分かればそう難しい問題ではありません。駒が1枚余ります。 |
4図(☖1二玉)まで
初手はこの一手だが‥‥失敗例
☗3一角、☖同 玉、☗3二金、☖2二玉、☗3一角、☖2一玉(4図)
初手☗3一角は玉を1三に逃がさない手。☖2一玉なら☗3二飛成までですから、同玉の一手ですが、続く3二金が間違えました。5手目の☗3一角はこの一手ですが、今度は☖2一玉と逃げられて、4二にいる自分の金がじゃまをしています。敵玉を詰めなければ負けという状況では、これで終わっています。
5図(☗1三角まで)
正解は玉の退路を断つ、3手目☗1三角
☗3一角、☖同 玉、☗1三角(5図)
同香(または同桂)、☗4二金、☖2二玉、☗3二金、☖1二玉、☗2二金 まで
3手目に☗1三角と再度大駒を捨てるのは、なかなか発想できない上に、思いついてもその後が読み切れないと指せない手ですね。初心者にはかなり高度な手筋ですが、このように玉の逃げたいところに捨て駒をして、あらかじめふさいでおく手があるいうことを知っておくと、飛躍のきっかけとなるでしょう。5図からは☗4二金以下、簡単な即詰めです。
王の上部脱出を巡る読み
問題図4 どう王手をかけたものか、迷う場面です。玉を1四に逃がさないようにできるか? あるいは逃げられても詰ますことができるのか? 丹念な読みが必要になってきます。 |
6図(☖1四玉まで)
失敗例(手拍子の王手)
実戦では手拍子で、最初に目につく☗2二金を指してしまいそうですが、失敗に終わります。なぜうまくいかないかを読んでおくのも、ムダなことではないでしょう。
☗2二金、☖1三玉、☗2三金、☖同 玉、
☗2四銀、☖1四玉(6図)
2二金と指せば、あとは先手に選択の余地がありません。後手の端歩が1五まで伸びているので、☖1四玉と逃げられて手が届きません。この時、駒台に桂があればよいのですが‥‥。そこで、金で直接王手をするのではなく、飛車による王手を考えてみます。
7図(☖1四玉まで)
正解1(しゃれた空き王手)
☗3三金、☖1三玉、☗2二龍、☖1四玉、(7図)
☗2三龍まで
初手☗3三金と桂の当たる場所に金を動かすのがしゃれた手で、空き王手になります。☖1三玉の一手に☗2二龍以下、簡単な詰みです。
8図(☗2二銀まで)
正解2(桂を取って空き王手)
初手☗2一金と桂を取るのも正解です。以下、☖1三玉、☗2二龍、☖1四玉と逃げられると6図と似た形になりますが、桂が手に入ったので☗2六桂で詰みです。次にもう一つ、☗2一金に対して同玉と取ってくる手も、読んでおかなければなりません。
☗2一金、☖同 玉、☗3三桂、☖3一玉、
☗2二銀(8図)
こちらの変化も簡単でした。しかし、初手からすべての変化を読み切るのは大変です。実戦ではこのように正解が複数あるのが普通ですが、相手の受け方によっては思いがけない落とし穴があることもしばしばです。また、☗2一金のような手筋らしくない手が正解になることもあります。大事なことは、手順は短くても多岐にわたる枝の読みを怠らないことです。