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名人と竜王はどちらが格上? 強いのは?

名人は実力ナンバーワンの証しだった    

 

 将棋も囲碁も、伝統のあるタイトル戦は皆、新聞社が主催しています。名人戦については、どちらの世界も戦後に実力制の名人位(タイトル戦)が創設され、それを新聞社が後押しするという形で次々と新しい棋戦が生まれました。囲碁・将棋は日本の伝統文化であり、それを支援することが新聞社のステータスでもあったのです。

 将棋界では戦後、実力制初の木村義雄十四世名人が誕生し、その名人位を巡って、塚田正夫、升田幸三、大山康晴などの棋士が覇権を争いました。その後、中原誠、谷川浩二、羽生善治などの歴史に残る大名人が生まれたことはご存知の通りです。

 名人位に挑戦するためには、プロ(四段)になって順位戦C2組のリーグ戦を勝ち抜き、次にC1組B2組B1組A級と上がっていかなければなりません。そして、A級のリーグ戦で1位になった棋士のみが名人七番勝負に挑戦できるのです。昇級は1年に一回しかチャンスがありませんから、名人に挑戦できるのはプロになって最短でも5年かかります。

 ちなみにこの名人挑戦最短記録を持つのが、かの有名な「神武以来の天才」加藤一二三(愛称ひむみん)と、中原誠です。加藤一二三は、最近話題の中学生棋士・藤井聡太が現れるまで最年少プロ棋士の記録を持っていました(さらに彼は、公式戦最年長勝利記録の保持者でもあります)。

将棋連盟の見解は「同格」だが…

 
 こうしてみると、「言うまでもなく名人位が棋界最高の棋戦ではないか」と思うかもしれませんが、ことはそう簡単ではありません。
 1987年に十段戦を発展的に解消して発足した竜王戦(読売新聞主催)が、賞金額で名人戦(朝日新聞主催)を上回ってしまったからです。

 それまで、棋界では「タイトル料の大きな棋戦が上位」としてきましたから、困った事態になりました。実力制に移行する前の「名人」は唯一絶対の存在で、しかも終生称号でした。それを引き継いだタイトル戦である名人戦より格上の棋戦など、あろうはずもありません。

 実は、読売新聞は囲碁の世界でも、伝統ある名人戦に対抗してより賞金額の高いタイトル戦(棋聖戦)を創りました。お金にものを言わせる読売の手法は囲碁将棋に限らず、野球やサッカーにも見られます。それをどう考えるかは、それぞれの趣味嗜好やものの考え方によって異なるでしょうが、将棋連盟は名人と竜王を、公式には「同格」としたのです。

 とはいえ、それは建前上のことで、現実に棋戦情報などの掲載では必ず、竜王、名人…の順になりますし、竜王と名人の両方を同時に獲れば、称号は「竜王・名人」となります。先に名人を獲ろうが、名人を何期続けようが、「名人・竜王」の呼称はあり得ません。カルチャーがスポンサーに勝てないのは、古今東西あまり変わらないようです。

名人戦と竜王戦、挑戦者決定方式の一長一短

 

「格」の問題は、行きつくところ「歴史か、お金か」という不毛な議論になるのでこの辺で打ち切り、ではどちらが強いか(あるいは獲るのが難しいか)という問題を考えてみましょう。

一段一段、順位戦を上る難しさ

 順位戦及び名人挑戦のシステムは、先に大雑把に述べてきたので、簡単な補足にとどめます。順位戦5クラスの最高位であるA級リーグは、11名の総当たり先で名人挑戦者を決め、下位2名が次期にB1組上位2名と入れ替えになります。A級に昇級すると自動的に八段になります(ちなみにB1組は七段、B2組は六段、C1組は五段)。

 まずはA級に上がるまでが大変で、全棋士が昇級と降級をかけて目の色を変えて戦う順位戦は、例外なく大激戦になります。すい星のごとく現れた天才的な棋士でも、プロ入りしてからA級昇進まで、数年~10年くらいはかかるのが普通です。ある意味では、A級棋士になるのは、他のタイトルを取るよりも難しいといえるかもしれません。現実に、他棋戦のタイトルを獲っても、A級にはなかなか届かないケースはよくあります。

 また、A級に入ってからも、最高位11名による1年近くかけての総当たり戦でトップに立つには、安定した強さを発揮できなければなりません。調子に波のある棋士はどんなに強くてもなかなか名人に挑戦できません。

リーグ戦のない竜王戦は、波に乗る強さが…

 次に竜王戦の挑戦者決定システムですが、ここにはリーグ戦はありません。1組から6組に分かれたランキング戦(トーナメント)が行われ、各組の上位者、計11名が変則的な決勝トーナメントを行い、挑戦者を決めます。

 変則的というのは、決勝進出者を2組に分け、それぞれの組が下位者から順番に勝ち上って、最終的に勝ち上がった2人が三番勝負で挑戦者を決めるというものです。

 例えば6組の優勝者は最初に5組の優勝者と対戦し、勝つと次に4組の優勝者、さらに勝つと1組5位、1組4位、1組優勝者の順に対戦することになります。一方の山でいちばん下位者である3組優勝者は、まず2組2位と対戦し、次に1組2位、2組優勝者と1組2位の勝者、の順に対戦します。

 いわば下克上トーナメントというべきシステムですが、急成長の勢いに乗った若手にとっては魅力的なシステムです。最終決定戦も3番勝負の短期決戦ですから、調子の波に乗ったほうが有利です。もちろん、実力がなければそこまで勝ち上がれませんが、大物タイトルホルダーや自分が苦手にしている棋士が別の山で負けてくれたり、あるいはその逆だったりといった、多少の運・不運はつきものです。

データで見る竜王&名人―その違いは?

 それぞれの挑戦者決定までのシステムの特色(違い)を説明してきましたが、結果としてどのような傾向が出てきているのか、データを見てみましょう。第一期竜王戦の行われた1989年から29年間の成績をまとめてみました。

 ■タイトル獲得者       挑戦者

 竜王  名人
 氏名  回数  氏名  回数
 渡辺 明   11  羽生善治   9
 羽生善治   6  森内俊之   8
 谷川浩司   4  中原 誠   3
 藤井 猛   3  谷川浩司   3
 森内俊之   2  佐藤康光   2
 島 朗   1  丸山忠久   2
 佐藤康光   1  米長邦雄   1
 糸谷哲郎   1  佐藤天彦   1
  (計8名)    (計8名) 
 竜王  名人
 氏名  回数  氏名  回数
 羽生善治   7  羽生善治   7
 佐藤康光   4  谷川浩司   5
 森内俊之   3  森内俊之   4
 丸山忠久   3  米長邦雄   3
 谷川浩司   2  郷田真隆   2
 渡辺 明   2  中原 誠   1
 森下 卓   1  高橋道雄   1
 真田圭一   1  森下 卓   1
 藤井 猛   1  佐藤康光   1
 阿部 隆   1  丸山忠久   1
 鈴木大介   1  三浦弘行   1
 木村一基   1  行方尚史   1
 糸谷哲郎   1  佐藤天彦   1
 挑戦者
 =13勝15敗 
 挑戦者
 =14勝15敗 

 タイトル獲得者は竜王、名人とも8名、挑戦者の顔ぶれは竜王14名、名人13名で、この点では変わりません。超一流棋士は、どちらにも顔を出しています。

 でも、不思議とも思える違いがあります。お気づきのように、竜王位11回と圧倒的に強い渡辺明が、名人戦ではこの時点で挑戦者にさえなっていないことです。また、羽生善治は両棋戦で大活躍していますが、名人位5期の谷川浩司は竜王位に1回しか就いていません。森内俊之も名人4期に対して竜王1期です。

 竜王戦が始まった1,989年には、中原全盛時代に陰りができ、谷川時代を迎えていました。さらに、当時チャイルドブランドと呼ばれた「島研」の羽生・森内・佐藤(康)世代が、将来を担う棋士として注目されていました。この年、島朗が初代竜王になったということは、新しい時代の幕開けを告げる象徴的な出来事だったのです。

 一方、A級棋士によってのみ争われる名人戦では、まだ力の残っている中原、谷川が活躍しているのに対して、全棋士によるトーナメント方式の竜王戦では、両名はもう世代交代の波に飲まれています。そして、今世紀に入り、谷川時代は終焉を迎えたのです。

 結論として、竜王戦は名人戦(順位戦)よりも世代交代が早めに現れやすい棋戦といえるかもしれません。


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